kahoさんの論文が出版された

Quality control method for RNA-seq using single nucleotide polymorphism allele frequency

理化学研究所小保方晴子氏らが発表した「STAP細胞」について、理研統合生命医科学研究センターの遠藤高帆上級研究員が遺伝子解析を行い、その細胞が実際には論文で主張されているものとは異なる、という解析結果を発表したのは記憶にまだ残っていますか?

さて、いよいよその結果が論文として掲載されました。掲載誌はあっと驚く「日本分子生物学会誌(電子版)」です。


遠藤氏、と書くと「誰?」とこどもたちに聞かれそうなので、ここはkahoさんがと言い換えます。


理研という所で「bioinformatics」という分野の研究をしているkahoさんは、インターネット上に公開された遺伝子データを解析して、「STAP細胞」のものだとして提出されていた細胞のデータが、実際には「ES細胞」という広く使われている万能細胞に非常によく似ている事を見つけ出しました。

論文は、「日本分子生物学会」の学会誌の「Genes to Cells(電子版)」( http://onlinelibrary.wiley.com/ -> 「Cell & Molecular Biology」 -> 「 Cell & Molecular Biology」 ->  「Genes to Cells」)に掲載されました。

探すのは面倒だ、という人の為のリンク
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/gtc.12178/abstract

論文:Quality control method for RNA-seq using single nucleotide polymorphism allele frequency
著者:Takaho A. Endo*
出版日:Article first published online: 21 SEP 2014
DOI: 10.1111/gtc.12178
著作権:2014 The Author Genes to Cells © 2014 by the Molecular Biology Society of Japan and Wiley Publishing Asia Pty Ltd

Publication History
Article first published online: 21 SEP 2014
Manuscript Accepted: 12 AUG 2014
Manuscript Received: 20 JUN 2014

Quality control method for RNA-seq using single nucleotide polymorphism allele frequency

Abstract
RNA sequencing (RNA-seq) provides information not only about the level of expression of individual genes but also about genomic sequences of host cells. When we use transcriptome data with whole-genome single nucleotide polymorphism (SNP) variant information, the allele frequency can show the genetic composition of the cell population and/or chromosomal aberrations.

Here, I show how SNPs in mRNAs can be used to evaluate RNA-seq experiments by focusing on RNA-seq data based on a recently retracted paper on stimulus-triggered acquisition of pluripotency (STAP) cells. The analysis indicated that different types of cells and chromosomal abnormalities might have been erroneously included in the dataset.

This re-evaluation showed that observing allele frequencies could help in assessing the quality of samples during a study and with retrospective evaluation of experimental quality.

題名を日本語にすると、一塩基多型の対立遺伝子頻度を用いたRNA-seqの品質管理手法になると思います。

これは、「生後一週間のマウスの脾臓細胞から作成したと主張されているSTAP細胞」のほとんど全てが、8番染色体にトリソミーという通常は胎生致死になる遺伝子異常を持っていた事を明らかにした時の論文になります。

忘れている人がいるかもしれないので、日経サイエンスが「2014年6月11日」に公開した記事のリンクを置いておきます。

【号外】STAP細胞 元細胞の由来,論文と矛盾
http://www.nikkei-science.com/?p=42686
記事の本文はPDFです。

参考までにはてなブックマークもつけておきますね。
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.nikkei-science.com/wp-content/uploads/2014/06/20140611STAP.pdf

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.nikkei-science.com/?p=42686

ちなみにこの論文は、「STAP論文を完全に否定するもの」になりますが、同時に「公開されているサンプルデータが、実験の質の遡及評価に役立つ可能性があることを示した」論文という位置づけになります。

STAP細胞」のRNAシーケンシング(RNA-seq)データによって、「STAP細胞」の性質が評価できる事は、既に複数の大学の研究室によって同様に検証され、確認されています。


専門的な論文になりますが、「日本分子生物学会誌」に掲載された事に祝意を表して、ここにお知らせさせていただきます。

なお、ご本人は、論文をオープンアクセスにしたい、と希望されているそうです。



掲載誌が「分子生物学会」である事の重要性は、kahoさんに対して独自の批判を展開している人達がどのような類の人間なのかを判断する際に考慮されるでしょう。「我々の主張こそ科学的に正しいのだ」、と批判者達が主張したいならば、同様に論文を書き上げて批判に耐えうる科学誌に投稿し、「きちんとした科学者による査読」をうけるべきでしょう。まともな論旨によらないものは却下されますが。

ちなみにkahoさんの論文の結論については、既に他の人達によって同様の結果がでています。強調するほどの事ではありませんが。もちろん彼らは「東大なんていう聞いたこともない大学の検証なんて間違っているにきまっている」、と主張するのでしょう。

そういうわけで、どこに論文が掲載されたのかも含めて、広めていただけますと助かります。