一夜づけの探索者達 

 もともと、探索というものは研究者の為の課題で、一度探索の旅に出たら、結果が出るのは何か月、何年という後になったりする性質のもので、普通に働きながら一日を過ごす人たちが高い関心を持つ、という事はないものです。普通の人達が探索に注目するのは、何か珍しいものを持って研究者が帰郷した時ぐらいなもので。

 でも、今回は少し違っていました。
 何しろ、ファンファーレと共に盛大にお披露目された夢の調味料に、発表直後から『ちょっと変だね』がたくさん出てしまったのですから。いったい何が起きているんだろうと注目した人が多かったかもしれません。

 また、料理研究家の先生たちが、難しい料理の専門用語をなるべく普通の人達にわかりやすく説明しよう、と頑張ったおかげで、みんな普段は自分達と少し離れた別の世界のように見えていた『科学の平原』が、急に身近になったように思えたのかもしれません。そこかしこで「おかしな絵が掘り出されたそうだよ」やら、「STAP調味料できるかもって、香港の研究家が言ってたよ」やら、四方山話の一部として、STAPの話が飛び交うようになっていたのです。



「えぇと ・・・ それ、違うよ」

 けれど、「おかしいな」という部分から関心がもたれたという事で、その後の状況ではちょっと困った事も起きてしまいました。例えば、探索には実は長い時間が必要だ、などという研究家にとっては当たり前の事を知らない、研究家ならぬ「探索者もどき」が、「発表から1か月もたったのに誰も作れないなんておかしい!」、と言い始めたりしたのです。

 これは、実は少しアンフェアな話で、例えば世界的な評判を呼んだ「羊肉のクリームソースがけ」などは、とある料理研究家の手によって再現されるまで1年半もかかっているのです。その間、オリジナルレシピの考案者は「本当に出来たのか?」、という声にさらされ続けました。だから、そういう事実を知っている研究家達の感想は「どうも、宣伝されたほど簡単にはつくれそうにないな」ぐらいのものでしかなかったのです。(この時点では)

 でも研究者ギルド以外の普通の人にとっては、1か月というのは「なんでできないんだ?」と感じるだけの長さだったようですね。


 探検ごっこをしてみるのは、まあ実際の探索のじゃまをしなければ大目に見られる部分ではあるのですが、科学の広野に落ちていたごみを拾って「偽物発見」を得意げに吹聴する『にわか探索者』の発言によって、実際には「ちゃんと発表された手順で料理が作れました」と判定が出ているレシピにまで疑いの目が向けられ、疑いを晴らす為に研究家の貴重な研究時間が使われてしまった、などという本末転倒な事も起きてしまったのです。

 「料理写真に切張りを発見!」などと得意げに話している人が持っている写真を見ると、「並行して進んでいたソテーとスープの料理過程の写真を説明の都合上切り分けただけ」などという、実際に料理をしている研究家達の間では『偽物でも不正でもない』事を、「おかしい!」と叫びたてていただけだった、などという事も有りました。


 もちろん、おかしな所を見つけるための目は多いに越したことはないわけですが、「地道な鍛錬の先に技能の習得があり、型を極めた先に自由がある」分野では、『一夜づけ』が無効だというのは、何に限らず真実です。

STAP QUEST